中野中の足裏庵日記 -1-  爽やかに心踊る、加藤正嘉の抽象画

加藤正嘉

5月22日(火)
小雨の名古屋、名鉄本店の「加藤正嘉油彩画展」の展覧会場に私はいる。眉間に皺を寄せ、額に汗しているのは、名古屋の蒸し暑さのせいばかりではない。今朝いきなり、個展会場にパネル展示用の小文を書くように言われ、それゆえ私は呻吟しているという訳である。
加藤氏とは、昨晩夕食を共にしたあと、ホテルで3時頃まで飲みながら談論している。それ以前は去る2月、高輪画廊の三岸氏の案内でヴェロン*を訪ねた1週間、毎晩のようにワインを傾けながら深夜まで語り合った。そんな程度の交き合いだが、息が合うというのか、気が合って急接近、とにかく新作を見なければということでの名古屋入りとなったのだ。
作品は50号から小品まで20余点。すべて「風の景」とタイトルされている。白地のキャンバス(麻や紙)に着彩とコラージュによる抽象造形作品である。抽象といっても、イメージ性が豊かで、それが田園の風景や家並の連なりなどにも見えたりする。しかも、これは個人的感情が多分に入っているのだろうが、何となくヴェロンの香りがしたりして、アンティームな思いを抱いたのだった。
作品論についてはいずれ機会があろうかと思うが、日本の抽象作品は、得てして抽象のための抽象になることが多いのだが、今回の加藤作品は理に陥ることなく、またべとついた感傷もなく、梅雨の合間の五月晴れのように、爽やかに情感豊かな世界で私の心は楽しくなっていたのだった。

*【ヴェロン】ブルゴーニュ地方の寒村。故三岸節子がアトリエを構えていた。
現在、三岸黄太郎氏がアトリエとしている。

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