中野中の足裏庵日記 -5-  三宅悦隆展を訪ねて

三宅悦隆

某月某日
三宅悦隆グワッシュ展に立ち寄る。
グワッシュとパステルの明るい色彩が響き合い、リズムが絶妙に奏でられ、気持ちの良い空気に満ちている。ヨーロッパの風景や人物たちが、伸びのびと明るく息づいている。
風景は、「ローマ・スペイン広場」「ローマ・コロッセオ遠望」など特定の場所を冠した作品のほかは、格別どこというわけではなく、作者のイメージとしての「塔の見える風景」「屋根の見える風景」「遠い春」「白い風景」「海辺の町」「K町風景」など、制作のモティベイションとなるスケッチはあるにしろ、人肌のぬくもりある心象風景として、そこにある。どこか人懐かし気な温風と光がただよっている。
一方、「少年と老犬」「馬に乗る人」あるいは「母と子」など人物をモティーフにした作品では、グワッシュとパステルを塗り重ね、しっとりと滋味深い色調とマティエールで、深々とした思いを感じさせる。時の堆積を思わせるしみじみとした情感が込められている。
純化された想念が快いハーモニーを奏でる新作20余点の展観だ。
某月某日
「三宅悦隆グワッシュ展」(11/26〜12/08)の最終日、来観者の切れ目をとらえて三宅さんと話をする機会を得た。
今回の個展には出品されなかったが、三宅さんは実は中国にすっかりハマっている。24年前、訪中旅行団の一員として中国を訪問して以来、すでに50回を越すというから、かなりの入れ揚げようである。北京には定宿までがあるという。
何がそんなにおもしろいのか。
広大な大地、悠久の遺跡、豊かな文化、そのどれも魅力だが、何よりも人間がいいという。魅力的なのだという。中国の面白さは人間にある。どこへ行っても人々々で興味は尽きない。55もの少数民族が共存する複雑な人間性は、単一民族の我々には思いも及ばない生存の大変さを抱えて生きている。その人たちの日常みせる活力、逞しさ、明るさ。加えて純朴な人情。夜市を歩き夜店で土地の人々と一緒に飲み食す。三宅さんにとっては至福の時なのだろう。
この個展が了えたら、すぐにでも中国へ飛んで行きたい。そんな思いが顔に出ていた。
某月某日
三宅さんは独学だという。がそれは美術学校へ行かなかったというだけで、高校時代3年間、学校へ行きながら代々木絵画研究所(個人経営)へ通い、裸婦デッサンを徹底して勉強した。
日本橋生まれで、小学生のとき、春陽会の版画会員の担任に奨められて描いた国会議事堂の絵がコンクールで1等賞をとったりしたのが、絵の道へのルーツになるようで、高校ではすでに画家をはっきり志していたという。しかし、税理士の父には言えず、母からこっそり研究所の月謝をもらっていた。
以来、サラリーマンも教職も経験せず絵一筋で今日まで来ている。その間にもちろん結婚し、お子様2人を育て上げた。奥様の内助の功も思わないわけにはいかない。
次回は奥様から、我々の <知られざる三宅悦隆>について取材せねばなるまい。


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