中野中の足裏庵日記 -6-  佐藤照代展 - しなやかなレア -

佐藤照代

某月某日
佐藤照代さんとは、高輪画廊のグループ展で紹介され、2,3度お会いしたぐらいで、今回が実際的には初対面。しかし彼女の歯切れのよい明るい闊達なお話しぶりに、実に楽しい取材となった。がそれはまた彼女の油彩作品を彷彿とさせるものでもあった。
佐藤さんは一般的には版画家としての活動が知られているし、私もそう認識しているが、今回は油彩展。「油彩画はすぐ結果が出るから楽しい。」と語るように、実にダイナミックで直截な表現となっている。大胆な原色や純色の配置、動勢の激しいリズムはアクティヴに観る者に迫ってくる。直截といって単純ではなく、ダイナミックでパワフル、といって剛直ではなく、しなやかで鮮烈なイメージを顕現している。

某月某日
『Looking for the action』『Somebody up there』『Fantasizing flasher』『a horse droping to silence』『take it to the run』『but in BLUE』 これらは作品の題名だが私にはわからない。画家自身からFAXが送られてきた。
冒頭から順に『一夜の冒険を求めて』『どこかのだれか』『夢想する露出狂』『永遠の眠りに落ちる馬』『逃げる - 聖書の言葉。救いは得られっこないのに現状を直視しせず救いを求めること』『ものうげな牛』。
どこかサスペンティック・ロマンの匂いが漂い、瑞々しいイメージを喚起させてくる。この題名から作品を想起するのも楽しいし、自分自身のドラマを作るのもわるくない。
結局、それだけ言葉が鋭く心に迫ってくるということだが、彼女の作品の直截さがそこにある。複綜する思いや深々としたイメージをスパッと造形してみせる。切り口に瑞々しい肉汁が垂れ出すような生々(なまなま)しさがある。それが彼女のいう < レアの絵を描きたい > ということだろう。
それ故に、彼女のファンは作品に対する好悪がハッキリしている。誰にも受け入れ易いやさしい色遣いはない。強い色を激しく使うから、決して心休まるというわけにはいかない。イヤシの時代にあって < 観葉植物のような絵は描きたくない > のだ。自分の思うまま信念を持って自由に表現しようとする意志は強固なのだ。
それでなくとも経済不況をはじめ、絵を描き続けるにはむずかしい時代だ。だからこそ、むしろ腰を落ちつけて描きたいことを描き続ける佐藤照代である。

某月某日
一昨年秋、文化庁芸術家在外研修でパリに3ヶ月滞在、リトグラフの制作にいそしんだ。
一日ルーブル美術館へ出かけただけで、毎日判を押したように、朝8時カフェでコーヒーを飲み、8時半に工房入り。早速、待機している技師たちと打ち合わせをして制作へ。多国籍の人々と作品を批評し合い、技術を検討し合って気が付くと夕6時。夜は仲間のバースディ・パーティなど楽しくリラックス。「とにかくエキサイティングだった。」 という。 ショッピングする気もおこらぬほど楽しく制作に熱中した3か月。あまりの真面目さに、ついた渾名(あだな)が < 修道女 >。
3月にはご主人のやはり版画家、園山晴巳氏と台湾で2人展を開く。


中野中プロフィール/足裏庵日記バックナンバー