中野中の足裏庵日記  -23-    自分の歌を歌う

貝殻写真


某月某日
今年は三岸好太郎の生誕100年に当たることから、それを記念した大規模な回顧展が全国を巡回している。 同じく高輪画廊でも4月のPart1に次いでPart2の三岸好太郎展が開かれ、一方、日本橋の三越本店では三岸節子素描展が開催されている(7月22日〜28日)。 また、すでに終了したが、三岸黄太郎展が全国8ヶ所(東京日本橋高島屋ほか)で1月から4月まで開かれた。
まさに2003年は【三岸ファミリー・フェア年】とでも呼べる賑わいである。

某月某日
30点ほどの出品からなるPart2展(7月14日〜8月2日)は大半が素描だが、油彩、コラージュ、グワッシュ、そして墨やペン画なども含まれて多様ぶりがうかがわれるが、同時にわずか10年ほどの制作活動がナイーブな人物像に始まって、フォーブ、抽象、晩年の幻想的な作風と変遷したことをうかがわせる多彩な内容で、小品ばかりとはいえ充実した、楽しめる展示内容となっている。

某月某日
それは「目まぐるしい変化の軌跡」と呼べるものだが、「そのすべての作品の中で、自分の歌を歌っている。」(黄太郎氏)そのこともこれらの小品群は教えてくれる。
例えば、『昭和の洋画100選』(朝日新聞社)と開くと、三岸好太郎「海と射光」(1934年)が収載されている。
この作品は第4回展の独立展に「海を渡る蝶」「のんびり貝」などと一緒に出品されている。これらはいずれも蝶や貝をモティーフにしたシュールレアリスム風の作品で、同解説文には、「その(作風の)変貌ぶりに周囲は驚いた」と紹介。 また、好太郎自身がこの作品について、「貝殻は小笠原に旅行した折の写生を主として少女の裸体を配し死せる貝殻にユーモラスな人カクを与へた」と記していることにも言及している。
出品作の一点「貝殻」(案内状に使われている)はここで紹介されているように、小笠原でスケッチされたものであろう。 この素描からだけでも、モダニスト三岸好太郎のロマンティズム、あるいは明るい虚無感と感傷が漂い香ってくるように思われる。

(7月19日記)  

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