中野中の足裏庵日記  -28-    前島隆宇 - デーモンの森

前島隆宇展

前島隆宇氏



某月某日
独自の宇宙観でユニークで魅力的な『天景』シリーズを展開する前島隆宇さんが、一昨年に次いで2年ぶりの個展を開催した(11月25日〜12月5日)。
この個展、開催が予定より2週間遅れとなったのだが、それは前島さんが個展のための作品制作中にドイツへの小旅行を挟んだためだという。発表された小品群(SMから15号までの20点)を拝見すると、ベテランといえど曽遊の地への30数年ぶりの旅行は心はずませることが多かったのだろう、その心の弾みが作品に息づき、表現が新鮮となり、かつ多様性を帯びて、『天景』シリーズの新たな展開を予兆させるものとなった。

某月某日
1969年、というから既に34年前、前島さん30代の最後の1年を西ドイツに遊学。Kiel博物館に在勤しながらDr.Schlosserのもとに勤務、この間フランス、オーストリア、オランダ、イギリス等北欧の各地を研修、謂わば曽遊の地である。
あらためて北欧の地が自分の体質に合っていることを再確認されたというが、ことにも惹かれたのは森の姿、そのたたずまいであった。それは出品作に〈ドイツ〉とか〈ウィーンの森〉などの副題の付けられていることからも知れるが、すべてとまでは言わずともその多くは『天景〈聖域〉』(15号M)に収約されていよう。
そもそも『天景』とは、作家自身の謂によれば、「生命の細胞の在り方と宇宙律(秩序)は等質である」という言葉に収約される。 つまりは、人間(のみならず生きものすべて)の細胞は、たった一つをとってもその核の中に体のすべてを再現できる情報を持っている。氏の描く『天景』も同じように、一点の色彩、質感、その調和の中に、人間の存在や宇宙律までをも内包しているのだ、ということなのだ。
その根底にある、あるいはその絶体を司る神のいます処、それが〈森〉であり、一方、その対極であるデーモンの棲み処でもある〈森〉、 そこから芸術は生まれでることをあらためて体感した。
しかもそのことが建造物にも人々の生活にも感じとれる。文化の骨格がしっかりと肉化し根付いていることが再確認できた、その心の弾みが今回は色濃く反映しているように思われる。何よりも眠りかけていたデーモン、いや、〈眠れる森のデーモン〉が蘇ったような地底のおごそかな轟きを聴く思いがする。

某月某日
聴くといえば、珍しい話を聞かせていただいた。前島さんはそもそも音楽家を夢みる幼少年だったという。その10代で断ち切ったはずの夢は地下水脈のごとく絵画制作の中に命脈を保ち続けたらしい。
「80才になったら━大楽曲を発表する」との宣言が飛び出した。只今構想中の16メートルの長大作品とまったく構成を一つにする楽曲が生まれる予定、いや必然にあるらしい。大パフォーマンスが期して待たれる。


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