中野中の足裏庵日記  -29-    挑発する絵画 - 佐藤照代展

佐藤照代展

左より筆者と佐藤照代氏



某月某日
佐藤照代さんの師走の個展(12月8日〜18日)は高輪画廊の恒例となった感がある。一昨年は風景の中に配した人物で、昨年はFleursと題して花づくし。今年は徹底して人物、それも一対の男女の作品が光彩を放っている。

某月某日
「Figure of man」と題した作品群は15号からSMまで20余点の発表で、邦訳は「人物より」となっている。figureは形、肖像、風采などの意を持ち、manは第一義は人物であり、一般的には男の意だ。すべての作品は金箔の上に地塗りをされ、その上に男女が描かれているから、どの人物も内側から発光し観者に迫ってくる。しかもその人物が男も女もマッチョであり、ことに女性はエモーショナルな情念を抱えて発光して、とにかく官能的で、気弱い私などは圧倒されっぱなしだ。

某月某日
トータル・タイトルの他に、一点ごとにタイトルがある。案内状に使われた作品は金地に朱赤でテクスチャされた中に、上半身を画面いっぱいに紺色の肌をした男女が視線をからめて熱っぽいムードで「Partner(相棒)」、ピンクに火照る肌もあらわにベッドに並ぶ男女は「restraint(束縛)」とある。他に「belief(信奉)」「scheme(たくらみ)」「ideal(理想)」「provocation(挑発)」「depression(憂うつ)」「immoral(背徳)」等々。

某月某日
タイトルはすべて男女間の心情的相関、あるいは相位を語っている。これらの作品は男女一対であれ女性の単身であれ、女性から発信される男との関わり、感情を語ったものなのだ。それを周囲の環境や小物を援用してアトモスファーとして演出をするのでなく、いわば間接話法でなく、直接話法で大胆に、躊躇することなく、正にダイレクトに表現するのが佐藤照代流なのだ。しかも迫力満点、強い彩調と光り輝く瞳を射込んで観者をとらえてしまう。「描きたいことを描きたいように描く」佐藤照代の男も女も、観る者を挑発して止まない。


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