【中野中の足裏庵日記】―46―加守田次郎ーさらに深まる感傷旅行
2005/10/07

某月某日
当画廊での3度目となる加守田次郎展(10/03〜14)は、深まりゆく秋の日のヴィオ ロンの音のごとく、しっとりと静かに、だが確かな手応えもって私の心を浸潤していった。秋色に良く似合った香りと響きがあった。

━淡い彩調に大地の地熱のような温もりが胚胎し、大気にはうつろな光(明り)が蔓延する。人はノスタルジックな思いを抱き、郷愁に誘われる。
どこといえない風景には、どこかしら未完の風がある。頼りなげなその風に、人々は画家と一緒に絵の中に入り込み、その人なりの風景をつくっていく。そんな親しみと優しさと湿度がある。━

こんなことをこの日記に書き、彼の心の旅路を<感傷旅行>と呼んだ。

某月某日
2度目の個展は一昨年、猛暑のフランスはヴェロンで10日間ほどを過ごした、その秋に開かれた。私はやはりこの日記に<深まる感傷旅行>と題してこう書いた。

━加守田の孤独で感じ易い心は、私が想像する以上にヴェロンの光と風に感応していたようである。━

━感傷、ということばにはどこかセンチメントな思いが含まれるが、本来は感じやすい心を指す。・・・もともと北関東育ちの彼には、風土としてブルゴーニュ地方に違和感はないのではなかろうか。・・・初めての土地に多分、懐かしさを感じ、満腔の思いで大気を深々と吸ったに違いない。やさしさと瑞々しさ、そして懐かしさを今回の作品に感じる故である。━

某月某日
2年ぶり3度目の今回はDMにも使われた『横たわる人物』(油彩,25P)が興味深かった。二人の人物が横たわっている、男女なのか二人とも裸婦なのか判然としないが、簡略化されたフォルムと、互いの添うごとくはなれるごとくの、組合せと微妙な距離感が気になる。気になることは他にもあって、常識的には長椅子かベットなのだろうが、私にはゴツゴツした岩場のわずかな空地にでも横たわっているようにしか見えない。
しかし、そんなことはどうでも構わないのであって、そんなことを超えて魅力的なのは、その人物のフォルムであり、フォルムを描き出す線にある。描いたというより削った、もしくは刻み込んだような稚拙にもみえる線、この線がヴィヴィッドで、ふるえるような 瑞々しさを生み出している。重くはないが、しっかりした存在感を持っている。

某月某日
人物では他に1人の立像や群像も興を惹かれた。また3本マストの帆船の30Pや小品の6F、黒々とした猫や鳥の連作など、どこかしら彼自身、自らの方位をつかみつつある手応えがでてきたのではなかろうか。色調はけっして明るいとはいえないが、かといって心理的な重さはなく、澄んで透明な精神性が感じられる。
彼の<感傷旅行>は一段と深まりゆくようである。




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