【中野中の足裏庵日記】―50―森本宏起ーたゆたう光と空気感
2006/03/19

某月某日
高輪画廊では初めてとなる森本宏起個展(3/06〜16)が開かれた。春半ばのような暖かな日があったり真冬の寒さに戻ったり、また強風に見舞われるあいにくの天候となった2週間だったが、森本さんは訪れるファンにいつもにこやかに丁寧に応接におわれていたようだ。

某月某日
森本さんは1962年埼玉県草加市に生まれ、東京芸大に進み、美術学部絵画科油画専攻を卒業、その後、同大学院に学び、'91年美術研究科を終了、この年すでに<新人選抜レスポワールシリーズ>の一人として銀座スルガ台画廊で個展を開催、画壇デビューを果たしている。
1996年から98年までイタリア国政府給費留学生として国立フィレンツェ美術学院に留学、テンペラをはじめその画技を徹底的に研究。現在は、制作活動のかたわら、東海大学教養学部、多摩美大美術学部に非常勤講師として後進の指導にあたっている。

某月某日
今展には四季折々の自然の風景、花等を題材に約20点ほどが並んだ。
森本さんの大学院の終了制作が『剣岳』で、これは当時楽しみにしていた山歩き(ワンダーフォーゲル部に所属していたかどうかは未確認だが)から生まれた作品で、その後も山岳風景を好んで描いている。私の印象でも、山腹から眺めた、つまり高い視点から至近距離でとらえた這松やガレキの山肌を精写した作品が多かったように思う。
今展にも『尾瀬ヶ原湿原盛夏』(40P),『湿原の白樺』(20P),『小田代ヶ原』(15P),『飛竜山』(6F)など山を眺望する風景画が並んだが、私の印象と明らかに違ったのは、視点が低くなった、つまりごく普通のスタンスでの目線になったことだ。そのことにより、緊迫感や力感にかわって、眺望が広くなって奥行とゆったりとした安定感がうまれた。その結果、対象の質感を追うよりも、むしろ景観の中にたゆたう光や空気感、ことに日本特有の湿潤な気分をよくとらえ、的確に描写している。
もう一つは緑色の豊かで多様な表情だ。緑色はむずかしいとよく言われるが、それはベッタリと平板になりがちな色だからなのだが、彼は微妙な緑色の色差とヴァリュー(色価)によって、加えて筆致の工夫によって色がベタつかず立ち上がって生きているのである。 また、花の作品では色彩をたっぷりゆたかに、かつ質感もしっかりとらえてみせる、その技倆の卓抜さには彼の修練の深さが感じられるのだが、しかもそれを見せずにさらりとやってみせるところが憎いほどなのだ。




中野中プロフィール up/足裏庵日記バックナンバー
HOMEロゴ
- Topics Board -
Skin by Web Studio Ciel