某月某日
ちょっと風変りな写真展をやるから、と三岸社長に誘われて、初日のパーティに出かけた。パーティ、ことに個展のそれは、作品の披露目とともに作者に会える、作品のことを作者から直接きくことが出来る場だと私は心得ている。日本式というか日本で一般に行われているパーティは知人友人が集まって酒盛りをする場となっているように見受けられる。
それはそれで楽しく賑やかで良いのだが、絵を見ずにひたすら飲み喰いし、絵の話題がさっぱりないという場面もしばしば見てきた。
その点、この画廊のパーティはシンプルで、本来のありようを示しているようで、いつも気持ちよく出席させてもらっている。
某月某日
風変りな写真の作者はマルセル・マゼ氏。フランス人で歳のころは60才を出たばかりというところ。さっそく”コマン タレ ヴー”の挨拶を交わしたが、私のフランス語はそこまで。以下、身振り手振りによる取材?だから、内容については責任が持てない。
案内状には日本初個展(3/3〜4/8、高輪画廊)で、Froissages(くしゃくしゃ)した写真の連作等多数とある。くしゃくしゃとは擬声語で紙などを丸めるときに発する音で、しわだらけの意。まさにマゼ氏の写真はしわくちゃである。
風景や花などの写真が、しわくちゃになって切り貼りされてCDケースに収まっている。それを1単位としてタテ数個×ヨコ数個の作品となる。花の作品は万華鏡の視覚を平面に転開したような華やかと迷宮的世界が開示され、風景はとくに建物のある通りを撮ったものが実に興味深く面白かった。
切り貼りすることとCDケースで区切られた連続になることと、くしゃくしゃのため、本来なめらかに連続している風景がギクシャクしたり歪んだり、凸凹にライトの蔭りが出て写真の影と交錯して異次元的立体感がうまれ、そこにある風景、誰もが見慣れた風景がまったく新しい風景として蘇ってくる。
初めて見る情景なのに、以前に見たことがあると感じる体験をフランス語で<デジャビュ>というが、そのまったく逆、つまり以前見た情景なのに、初めて見るように感じるのだ。
これをフランス語で<ジャメビュ>という。マゼ氏の詐術に赤ワインの酔いが加わって銀座の夜風は心地よさを増していく。
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