中野中の足裏庵日記(57) 加守田次郎−明日に向かう"いま"      
2006/11/24記
 
『馬』(M6) 加守田次郎さん 『建物』(F20)
某月某日
加守田次郎の高輪画廊での4回目の個展が開かれた(11/6〜18)。過去3回は隔年であったが、今回は昨年に引き続いての開催で、比較的寡作と思われる作者にとっては、けっこうハードなスケジュールだったかも知れない。
寡作であれ多作であれ、要は作品の出来にすべてはあるが、多作に対してどちらかと言えば批判的であったり、警鐘を鳴らす向きが多いようだ。多作は拙速をまねき、内容が稀薄になりがちであることを危惧してのことであろうことはよくわかる。しかし私は、作家は長い画業のどこかで、みずからに多作を課せる時期があったほうが良いと考えている。それも30〜40代が一番ふさわしいと思う。 20代は絵画とは、表現とはを考え惑い、技術を磨き、自分のモティフや色を探す。こうして画家は自分のスタイルを長い歳月をかけて確立しようとするのだが、ひとたび自分のスタイルを確立するや、今度はそのスタイルに縛られて新たな展開が窮屈になってしまう。この呪縛を打解するためにも、自分のスタイルを確立する以前に、多作を奨めたい。
つまり、頭で描く限界を拡大するために、多作することで、知や脳の限界を超えて手や体が描く。そんな体験をしておくことに意味があると考える。このプロセスを体験した後に、再び自分のモティフやテーマを絞り込み、自分の表現世界を確立するならば、その世界は一直線で進んだ場合よりも、深く厚い、内容の豊かなものになるのではないだろうか。


某月某日
扨て、加守田次郎のこの一年の成果は如何であったろうか。出品は40号からサムホールまで15点。帆船、人物(女性像)、静物、馬そして街景など、モティフの作域は広い。が全体に加守田調とでもいえるトーンが漂っている。それは多分に色調にある。これまではどちらかといえば黄や土色を基調とし、筆致を重ねるうちに土壁の中から何やらそれらしき景やモノ・コトが浮かび上がってくる、といった調子の作風であった。
今回もこうした色調や作風を引きずりながら、色味は多彩さをいくらか増し、かつ明るくなった。何よりも白への意識が強く感じられる。また、今作の大きな特徴はフォルムへのこだわりにあるように思われる。彼独自の情感をたたえながら、モノやコトの形(フォルム)がかなり明確に意識されるようになった。


某月某日
なかで、私は『建物』(F20)に興味を持ったというか、強く惹かれた。この作品はDMにも使われたから多くの人が目にしたことと思う。大きな二つの塊りとして箱のような白い建物があり、その前に大小の二つの街灯が立っている。建物は窓がうがたれているだけで実にシンプルな形であり、何の飾りもない。何よりも惹かれたのは、二つの建物の互いの間隔、そして二つの街灯の大小の釣り合いと間隔、加えて街灯と建物の距離感、すべてひっくるめて<間>の良さに感心した。シンプルなフォルム、静かな、落ち着いた画面が、この<間>によってゆるやかな動きが喚起されている。そしてそこから何やら物語りめいたものが揺らぎ出そうな気配がある。それが作品の内実を豊かにしている。


某月某日
『船』(F40)は帆の三角形と船体の長方形の組合せによる構成的試みが見られ、『石と人』(M25)や『人物』(F20)にはモノの形が大気の中で光によって明確になる寸前の、そのことによって存在の意味に迫ろうとし、『馬』(M6)には彼の体質にもっとも近いと思われる色とフォルムが見られる。初日に伺えなかったため会期中に作家に会うことが叶わなかった。しかし、こうして新作を繰り返し眺めていると、明らかに変容しつつある姿がはっきり感じられる。もちろん発表した15点はことしの制作の成果であると共に、一部であって、アドリエには未完を含め未発表の作品が完成を待って居並んでいることだろう。来年もぜひその成果を個展で見せて欲しいと願っている。


 
『人物』(F20) 『船』(F40) 『石と人』(M25)


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