中野中の足裏庵日記(60) じっくりゆっくり醸造を−蓬左の風−      
2008/01/15記
 
筆者を囲んで 赤塚一三 『paysage』(S8) 山田真二
某月某日
ここ高輪画廊は周知のとうり、三岸好太郎・節子の孫の太郎さんが当主であり、父は黄太郎であるから、 孫の3代目も流れからいえば画家になるのが自然であったろうと思われる。 かつて太郎さんご幼少の砌に描いた水彩画をみる機会があって、画才のDNAとはこうしたものかと感心したことがあった。 当然周囲にも画家に進むであろう黙約的な気分はあったと思われるが、彼は敢然と画商の道を選び、三岸家一族(祖母・祖父・父)の 作品の管理・維持・発展に尽くすことにしたのだった。
そうした関係から父の世代の作家との関わりがメインとなりがちななか、自身が若いころの画家への道を選ぶか否かで悩んだ 体験から、若手の画家の発掘・応援にも熱意をもって当たっている。



某月某日
今回開かれた『蓬左の風』展(12.3〜15)は若手の発掘・応援を企図した5人展である。それにしても<蓬左>とは聞き慣れぬ言葉だが、 DMの案内によれば、蓬左とは江戸時代に使われた名古屋の別称で、熱田神宮を蓬莱の宮と称したことから、その左方に開けた城下町 である名古屋が蓬左と呼ばれたことがある、その謂によったという。実に洒落た命名だ。
メムバーの中で兄貴株の赤塚一三(1956年生)が愛知県立芸大卒で、他の4人(26才から39才)はいずれも名古屋芸大卒あるいは同大学院修了で名古屋を拠点に活動を展開している。


某月某日
赤塚一三は個展経験も豊かなだけに作品がこなれている。<こなれる>とは、細やかな配慮により十分モティフが消化され、熟練の 進みぐあいがみられる。が一方で、世事になれるの意もあり、鑑賞者の期待を受けとめながらおのれのアイデンティティーをいかに主張 していくかが問われよう。真の勝負はこれからだ。
山内大介(81年四日市市生)、山田真二(68年愛知県生)、柳瀬雅夫(71年静岡県生)、そして紅一点の当画廊で個展を数回開催し、 本欄でもおなじみの大橋みやこ(76年愛知県生)の4人。それぞれに色彩や構成、筆致や表現手法等に個性を発揮している。 というか個性を打ち出そう、自分なりの特徴を出そうと意欲的に作品づくりをしており、それは半ば成功しており、半ば自分の世界を窮屈 にしてしまっているようにも見える。 作品には個性が必要、というよりも不可欠である。自分の他者よりも優れている資質をいち早く発見し、それを伸ばし磨いて 自分のアイデンティティを確立していく。それが大方の作家の歩みであろう。
しかしそのことを急ぐあまり、自分の資質を歪めたり個性の矮曲が起こってしまう惧れをなしとしない。 そもそも個性とは何だろうか。自分の個性に気づくことは大事だし必要だが、あえてつくり出すものではなかろう。人生を閲して いくうちに、おのずと身につき存在をあらわにしていくものではなかろうか。
人生に無駄はない、とはよく言われることだが、人生にも樹木の年輪のようなものがあり、その年輪の襞にいろいろなもの、 無駄と思われたものも含めて刻まれて深浅・曲直の陰翳を刻んでゆく。この陰翳が個性といわれるものになるのではなかろうか。 自分が自分であろうとするあまり、急ぎ過ぎて自分を狭くしたり浅くしたりしてしまうことは避けたい。無駄と思われる寄り道も、 遠回りも、ときに転んだり傷ついたり……そんなすべてを年輪の襞にとりこんで、いつか気がついたとき、これが自分だ、と 納得のいく深々とした陰翳の世界が生まれてくる。人生も酒もじっくりゆっくり醸造することが肝要なのだ。


 
柳瀬雅夫 大橋みやこ 左『花模様』(F6) 山内大介


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