中野中の足裏庵日記(75) 前島隆宇小品展《天景》の更なる展開の予兆      
2010/05/13記


右・前島隆宇 左・筆者


天景〈光雨〉 M6


天景〈光垂れ〉 M12


某月某日
前島隆宇さんが病癒えて4年ぶりに個展を開催した(5月10日~20日)。待望久しく喜ばしいことである。
いただいたDMに〈長年の主題である「天景」に視点の変化、色彩の純化が見られます。又、永遠性を暗示する水平的構成は更に強く印象に残ります〉とある。大いに期待し、楽しみに、初日に会場におもむいた。


某月某日
会場では顔色も良い笑顔でご夫妻が出迎えて下さった。闘病中はたまの手紙だけで無沙汰をしていたが、久々に交わした握手は力強く温もりがあって、先生の頑張りと奥様のご苦労にこみあがる思いが胸を熱くした。
出品は変形の25号と12号からSMまでの油彩18点にドローイング3点。第一印象は、明るく円やかになったなと感じた。タイトルはもちろんすべて《天景》だが、「月光」シリーズや「光垂れ」「光射す」「旭光」などサブにほとんど「光」が附され、当然の如く「影」を意識した作品も登場する。
従来との大きな変化の一つは、〈水平線〉の登場する度合いが少なくなったことだ。いや、それだけにむしろ〈水平線〉の意識化は深化し、印象も必然的に強まってくる。従来、必ずといえるほど登場した〈水平線〉の《天景》は当然のことながら水平に無限に広がる平面性に、画面を透視し穴を穿つような鋭覚的な視線があり、神経むき出しのようなビリビリするような鋭敏さがあった(と私は感じていた)。宇宙とはもっと球形なのではないか、とも感じていた。


某月某日
ところが、宇宙創生のビッグ・バンは、平面的・水平的に成されたのだ、と会場にいた方に教えられて、画家は直覚的にそのことを理解していたのだと納得した。もっともその後、多様な爆発や衝突等々の分裂によって球体状になったようなのだが、浅薄な私は良くは知らない。
ただ分かっているのは、天景イコール宇宙ではないことだ。宇宙と画家の、視覚や感性・知性の往還風景が《天景》なのだ。


某月某日
その《天景》に円やかな豊かさが出てきた。平面性に膨らみが感じられた。水平線の登場の有無に関わらずである。
もう一つに、これが大きな変化の二つめだが、色彩が多彩になり、明るく闊達になったことにもよろう。〈旭日〉や〈旭光〉には溢れる光が多彩で澄明な色彩となり、また〈影のカケラ〉では実に豊饒な白色が展開していた。どうやら前島さんは、病魔を克服されたことで、いっそう豊かな内的光景を獲得したのではないか。《天景》は新たな展開を大いに孕んでいるに違いない。


某月某日
そんな思いにとらわれていたら、パーティーで〈よく夢を見るんです。そして独り言で家内を驚かせているんです〉とおっしゃった。どうやら自分自身がこちらからあちら(宇宙)へ行ったり来たりしているらしい。そしてあちらからこちらに、あるいはこちらからあちらにいる自分と、互いに対話を繰り返しているんだという。
それが作品世界の豊饒たる展開を促すならば、独り言(寝言)で奥様を大いに不安がらせるのもけっこうなのかも知れない。
かてて加えて、〈あと10年頑張って、横幅16メートルの超大作に挑戦します〉と力強い挨拶があった。あと10年、こちらが先にくたばるわけにはいかぬ。前島さんの復活を喜ぶとともに、この先10年を見凝める意気と意欲に乾杯である。 (2010.5.13識)

 


天景〈影のカケラ〉 F4


天景〈光たわむれ〉B  15.7×68.0 水彩・ペン・厚紙


天景〈光たわむれ〉A  18.0×72.0 水彩・ペン・厚紙



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