中野中の足裏庵日記(78) 第3回 赤兎馬展に思う       
2010/10/14記


赤堀尚 青い柚子 M8


赤塚一三 桃丘 F4


遊馬賢一 
トスカーナの村の朝 P10


某月某日
『三岸節子 仏蘭西日記』の<カーニュ編(1968~1971)>が刊行されて半年になるというのに未だ読了できずにいる。小生の怠慢さにも一因はあるが、愚痴あり意外性ありでとにかく興味深くて面白く、また独白の間に記されたエッセーでは画家の覚悟や芸術への鋭い洞察が綴られ、一読一過できない深さと重みがあるのだ。
序文に三岸太郎氏(節子の孫、高輪画廊主)が「言葉の壁をはじめ、お金の工面、口に合う食料品の確保、各地への取材旅行、長期滞在することによって生じてきた家族内の様々な問題。・・・」と書いているが、こんなこと公表しちゃっていいの、と思われることなど赤裸々だ。
しかし、それらすべてが絵を描くための日常であり、絵を描くことで乗り越えるしかなかった、そのことに徹しきった凄さを思わざるを得ない。今わたしたちが目にする作品群はそうした舞台から生まれたものばかりなのだ。
天才には天才ゆえの苦悩があり、凡人には凡人ゆえの苦悩がある。いずれにしても個においては等価なのかも知れないが。


某月某日
様々なタレント(才能)6名による「赤兎馬」の第3回展が開かれた(10月4日~15日)。赤兎馬とは、周知のように『三国志演義』に登場する一日に千里を駆ける稀代の名馬のこと。
ひとり長老格の赤堀尚(昭和2年生)は静物画3点の出品。力強い筆致と鮮烈な色彩、簡潔な構図から生まれる存在感はいよいよ澄明感を深め、何よりも色そのものが説明としてでなく、存在としての魅力を存分に発揮している。



某月某日
赤塚一三(昭和31年生)は風景と静物の3点。淡い赤紫や黄、グリーン等の柔かいトーンが心地よく響き合う。空間をたっぷりとった構成も伸びやか。全体の朦朧感のそれはそれとして、どこかワンポイントが欲しく思うが如何だろうか。

遊馬賢一(昭和25年生)はトスカーナ風景など3点。画面全体にやわらかな光の偏在する、心和む作品。構成が要鼎で、まとめながら伸びやかな広がりを演出。黄と緑のヴァリエーションのなかの橙やピンクが艶やか。

遠藤力(昭和25年生)は北海道の山景3点。「利尻富士」は3号の小品ながら格幅があり、まったくのモノトーンの「樽前山」(P30)の激しい筆致と塗り重ねた色層のにじみ出てくる色調に北の風土への愛着・共鳴が哀しいまでに美しい。

田口貴久(昭和28年生)は精神性を強く感じさせられる。「植物」(F10)などに端的だが、空間をあげてモノの存在感をつくりあげているようだ。空間に対する(つまり空間を空間感でみる)考え方の新たな解釈が迫られているようだ。

富沢文勝(昭和22年生)は静物画4点。「レモンとグラス」(F8)も良かったが、モノクロに近い「カップ」(F20)が光を活かして魅力的だった。個々のカップは一つひとつ確在しながら、全体が一つとしての存在感が生まれていたと見る。


某月某日
画家の50~60才代は描き盛りといわれる。才は才として、今後はぼちぼち下降線を描きはじめる体力との勝負ともなってくるが、何よりも人生を閲した年輪という財産がある。千里の日を目指して日々健勝を祈る。 (2010.10.14識)





遠藤力 利尻富士 F3


田口貴久 椊物 F10


富沢文勝 レモンとグラス F8



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