中野中の足裏庵日記(80) 深まる陰翳に・・・富沢文勝展       
2010/11/08記


朝の光 F20


水辺 F6


ペンタワーの映る池 F10


某月某日
富沢文勝さんの、高輪画廊では3年半ぶりの個展(11月1日~13日)。この間、卓上静物などに意欲的に向かっていたが、今展は再び風景作品が中心となった。前回は秋から早春の水面に映る景をテーマにしていたが、今回は更なる深化を求めて、季節を晩春から晩夏に換えての挑戦であった。


某月某日
水面に映る景を描いた作品はよく見かける。そこに魅力を感じる画家が多いということだ。それらの多くは、小波立つ水面に映る木立ちや空の雲であったり、小波に戯れるように揺曳する光であったりする。
富沢さんも、木陰や光によって生まれる明暗の変化に意を配ってはいるが、今回の作品のほとんどは小波は立てていない。水面はまったりと穏やかだ。 小波にキラめく光もない。水面は静かに木陰を映すばかりである。
しかし、映る木陰の陰翳が深いのである。作家の意図はここにあったのではないか。「朝の光《(F20)や「水面《(F6)などの作品の木陰の陰翳の深さに私は惹かれた。


某月某日
もう一つ、陰翳の深さの一方でピンクや青や紫など、明るい色彩が大気感や季節感を演出していた。そもそもこうした彩調は富沢さんはこれまでほとんど使ってこなかったのではない。 深々とした陰翳が画面をやや重くするだけに、こうした明るい彩色は、自然の呼気や季節感を思わせて心が浮き立ってくる。その辺りに新しい試みに果敢に取り組む作家の姿勢がうかがわれたし、富沢さん自身には次なる課題が生まれたといえよう。


某月某日
水面の映景は、物理的につかめないのはもちろん、視覚的にもつかめそうで、つかみきれないもどかしさがあり、表現の難しさがある。そこに実在するものであるなら、壊すのも崩すのも手応えがあってやり易いのかも知れない。
どんよりした雲間から一瞬光が射す。水面は明るさを取り戻し、周囲の木々や建物の影を映す。富沢さんは小品はほとんど(風景は全部)現場描きで、即座に筆を走らせる。その間にも雲は流れ光は変って筆が追いつかない。もどかしい思いを抱く。その点、水彩作品(例えば「水面新緑《4号大)などは筆致もさわやかに軽やかな表情をみせる。


某月某日
「水彩は紙が語ってくれる。油彩も一瞬の筆致は直描きがいいが、どうしてもマティエルが弱い《と富沢さんは思っている。たぶん工芸的になるのが嫌でキャンバスに下塗りをしないのであろうが、このあたりも今後の課題となろう。
今回は、栗や柿あるいは椿などのめずらしい作品も含めて全25点。水映の深い陰翳のなかに作家の年輪や千情万感の思いを、そしてピンクや青の彩調に意気旺盛、明日へ向かう意欲を見た。(2010.11.8識)






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