中野中の足裏庵日記(85) 豊かなるものに包まれて・・・栁瀬雅夫展       
2011/09/13記


栁瀬雅夫氏


採石場 F50


展覧会会場


某月某日
栁瀬雅夫が高輪画廊での初個展を開いている(9.5~17)。そしてこれが東京での初個展だというのは、いささか意外であった。
1971年浜松市生まれの栁瀬は、名古屋芸術大学大学院在籍中に白日会展で一般佳作賞を受賞し、院修了の翌98年から名古屋のさいとう画廊でほぼ隔年ペースで個展を開催。また「明日の白日会」展(銀座松屋デパート)の常連として出品(2009年まで)、03年からは銀座のあかね画廊主催の「真白会」展に出品し続けている。毎年春の白日会展(現在、会員)をはじめ、高輪画廊でも07年以来、パリ祭、「蓬左の会」両展のメンバーとして活躍、東京でも馴染みの作家なのだ。


某月某日
個展の楽しみは、もちろんその作家の持味一色に染め上げられる魅力にもあるが、その反面、作家の真の実力を伺い知る機会ともなる。 あるいは又、団体展やグループ展での得意のモティフとは違った幅広いモティフや、より意欲的・実験的作品を目にする楽しみもある。


某月某日
栁瀬の特徴は、今では数少なくなった厚塗りにある。器用で達者な、きれいな絵がどちらかといえば歓迎される現在の画壇(ことに美術市場)にあっては、むしろ貴重な画風であり存在である。もちろん、徒に厚塗りでは意味はない。繰り返し絵具を置き、重ねることによって作者の思いがこめられ、テマヒマかけただけの時間がこめられてこその厚塗りであり、栁瀬の厚塗りには優しい温もりと、芳醇な香りが内包されるところに、彼独自の魅力がある。重厚ではあるが重苦しさはなく、意外と風通しが良いのである。


某月某日
栁瀬の厚塗りには、モノの存在感をつかもうとする意思がある。モノの形や物質的な厚みだけでなく、それらのモノをとりかこむ空気の層をとらえようとする。そこにモノとモノの距離感や関わり方の確かさが生まれ、存在感が醸出されてくる。
これらのことに関連して、丸味へのこだわりと、正面性への重視があるようだ。丸味はモノの厚みとなり空間の奥行きともつながり、正面性によってイコン的、もしくは聖性が感じられる。正面性による平面性と丸味による奥行き感という、一見矛盾する絡み合い、せめぎ合いが作品の深みとなり味わいとなっているように思われる。


某月某日
静物、風景、人物など50号からSMまで30余点の中に、ちょっと異質な50号が正面に飾られていた。ド・スタール調の静物画かと見えた抽象性の強い作品は、「採石場」と題されていた。栁瀬らしいモコモコモッタリのマチエールではなく、絵具はたっぷり使いながら伸びの良い運筆で、ヴォリューム感と面のせめぎ合いが、感覚の解放感を誘って魅力的だった。こうした描法がこれからの展開の予兆となるのかどうか、今後を見定めなければ何とも言えないが・・・。
いずれにしても豊かなものに包まれている充足感に満たされた充実の個展だった。 (2011.09.13識)






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