中野中の足裏庵日記(63) 赤裸にしてシャイな心情−佐藤照代展      
2008/05/16記
某月某日
佐藤照代さんは2001年から05年まで、高輪画廊で毎年、油彩画による個展を開催してきた。今回の〈佐藤照代展〉(5月12日〜24日)はおよそ2年半ぶりの油彩画展である。
油彩画と私がこだわるのは、当画廊で油彩画個展をはじめるまでは、もっぱら版画作家として活躍を展開してきたからだ。彼女の版画との出会いは東京造形大学絵画科在学中にあるが、1973年日本版画協会展に発表以降、国内はもとより海外展(リュブリアナ国際版画ビエンナーレ'83、'85。釜山青年版画ビエンナーレ'85。AGART World Print Festival'98。ジュネフェルダー国際版画展'99。2000年台北国際版画展)での活躍があり、私などは版画作家と彼女を認識していたからである。
2000年には、文化庁芸術家在外研修で渡仏、パリの工房であらためて制作体験を重ねてもいる。


某月某日
彼女の弁によれば、一般的に日本でのオリジナルリトグラフの制作工程は、主版(墨版)をイメージデッサンとして描きはじめ、順次、黄、赤、青、グレー・・・と重ねていく。ために色彩はどうしても墨版に従属した形に陥ってしまう。
そこで彼女は、リト本来の絵画的であることの魅力を活かすため、細部へのこだわりを捨て、全体の仕上がりを考えて、原画から大胆に離れて版自体の美しさを引き出すよう、色彩的には3原色の組合せを基本として、彩度を高く、明度は版の強弱で調整するようにした。高度のテクニックを要す描画手法である。


某月某日
その結果、奔放で自由で力強く、しかもマティエールの美しさを持った作品を生み出すことになる。のだが扨て、彼女の油彩作品にこのことが同じに指摘できるのではなかろうか。佐藤照代は油彩制作に、リト制作で学んだノウハウを存分に活かしているように思えるのだ。
大胆で奔放、自由で力強い構成、そして美しい色調の冴え。しかも作品を通して感じられる強い精神性・・・。


某月某日
白塗りの顔に青黒いふちどりの青い眼、通った高い鼻筋、赤い唇、そして黄赤青に染まる髪、彼女のカラリストぶりを如何なく発揮した作品がすらりと並ぶ。50号から8号まで約15点、いずれも女の首(顔)ばかり。首の傾きと目の表情が彼女の心をもの語る。〈もくろみ〉〈苛立ち〉〈信頼〉〈憐憫〉〈理想〉〈絆〉〈脅迫〉等々、彼女自身のヴィヴィッドな内面が、観る者の目をとらえ、心に侵食し、葛藤を迫ってくる。あなたは本当に日々を生きてるいるのですか、と。内面を曝す彼女の強さ、これこそが表現者の生き様であろう。
前回から2年半、ナルシスムの奥にうごめく赤裸な情とシャイな心が私にはウブに映った。

(2008.5.16識)



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