中野中の足裏庵日記(87) 稀代の名馬ならずとも―第四回赤兎馬       
2011/10/24記


赤堀尚 黒いコーヒーカップ F3


赤塚一三 コリーヌ S8


遊馬賢一 コリウール F4


某月某日
中国四大奇書の一つ「三国志演義」は、後漢末の魏・呉・蜀三国の争乱から晋の統一までを講釈風に小説にしたもので、明代の羅漢中の作になる。 <赤兎馬>はその中で、一日に千里を駆ける稀代の名馬として登場する。 例えれば、昨日菊花賞を制し6年ぶり7頭目の三冠馬となったオルフェーヴルのような駿馬か。
ところで北方謙三の「水滸伝」を読むと、中国における当時の一里はほぼ500mくらいらしいので、千里といえど500キロだからそれほど驚くほどの距離でもない。 などと知ったかぶりの書きようでせっかくの名馬に水を差すようだが、馬という奴は全速力で走れるのはたかだか数キロらしいから、やはり一日に千里を走るのはやはり稀代の名馬と言えよう。


某月某日
その<赤兎馬>を冠にしたグループ展も4回目を迎えた(10月17日〜10月29日)。
誰もが赤兎馬を目指し、時に挫折し、時に自足しながら紆余曲折を繰り返しながら、今日も絵を描く。 描くことでアイデンティティを自得するから生きてゆけるのだ。 肝心なことはひたすら描き続けることなのだ。 そんな中でコロッと良い絵が生まれたりもするのだと思う。
一日でなく一生かけて千里を走り続けることが<赤兎馬>への道であろうか。


某月某日
田口貴久(昭和28年 愛知県生 愛知芸大大学院修 立軌会同人)の「兄弟」(F20)、「顔」(F10)が面白かった。
氏は対象と向き合ってほとんどを描くようだが、この作品は自分の子供の幼かった頃を思い出しながら描いたという。 いわば記憶の中にある像なのだが、何とも愛しく、懐かしい像で、まさにコロッと生まれ出たような作品だ。 氏の鋭角を隠して実に味わいが深い。 どんな心境の変化があったのだろうか。

遠藤力(昭和25年 北海道生 武蔵野美大卒 写実画壇会員)の「風景」(F100)がウィンドウ一杯に飾られて道往く人々の目を引いていた。 駒形橋辺りから川向こうのビル群を描いて迫力満点だが、四角や長方形の近代ビルは絵にするにはなかなかの難物だ。
この大作のエスキース的油彩作品(F3)がサラッと描かれて風通しが良かった。

赤塚一三(昭和31年 岐阜県生 愛知芸大大学院修 写実画壇会員)の4点では「マックスドルマーの樹」(変12)が透逸。樹が存在として生きている。家々をもっと省略して欲しかった。
池のあるもっこりした丘の「コリーヌ」(S8)はむずかしい景に取り組んで格闘している。大作で再挑戦してほしい。

富沢文勝(昭和22年 東京生 多摩美大卒 写実画壇会員)はビンに集中。
「D氏のビン」(F4)のビンの肖像は素朴でスッとビンが立ちあがってくる佳品。 「ビンの森」「ビン-映る-」(共にM12)は群像で互いに響き合う存在感の追求はよくされているが、少しネチっこ過ぎはしなかったか。筆の措き時がむずかしい絵になってしまったように思う。
グワッシュの「ぶどう」(F3)は気軽に楽しんだ良さのある作品。

遊馬賢一(昭和25年 埼玉県生 愛知芸大大学院修 立軌会同人)の3点の風景作品は、いつもながらおだやかな光に包まれた明るい作品。
上品で行儀の良い中に点綴される赤や緑がアクセントをつくる。 土地の空気感を大事にしている作品。

赤堀尚(昭和2年 静岡県生 東京芸大卒 立軌会同人)の「青い夏蜜柑」(M10)は鮮烈な緑、紫紺、赤色と十字構成による揺るぎない作品。ほんの少しの塗り残した白地が枠で効果的。
「黒いコーヒーカップ」(F3)はきわどいバランスのカップと周囲(空間)の引き合いに妙味がある。
意表をつかれたのは「白いバックの千日紅」(M4)で、ヒョロッとした茎の先の紅紫の花5本を扇形に配し、右に一本倒した乱調の美など憎らしいほどの感覚。それにしても可愛らしい小品だ。


某月某日
秋も深まり、朝晩の冷え込みが強くなった。
三岸節子さんの台詞ではないが、長生きしたものが勝ちである。皆さん、お体には十分留意致しましょう。

(2011.10.24識)





田口貴久 レモンの静物 F4


富沢文勝 D氏のビン F4


遠藤力 枯野 M10



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